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リレーエッセイ Vol.72 瓜谷輝之さん

私は、「ワーカーでなく、プレイヤーであれ」という姿勢を働くうえでの基本にしてきました。これは、“パソコンの父”と呼ばれるアラン・ケイ博士の言葉で、与えられた仕事を受動的にやる「ワーカー」ではなく、好奇心と創造力をもって自分が主体となる「プレイヤー」として物事に臨むことを指します。私は、どんな仕事もエンジョイしようとする意識の持ち方一つで、誰もがプレイヤーとして働くことができ、その延長線上に個人の幸せが位置づけられていくと思っています。

ヒューレット・パッカード(以下、HP)で、私がプレイヤーとして関わってきた活動のひとつに、スーパーサイエンスキッズ(以下、SSK)があります。SSKは、『スクイーク Etoys』(※1)というフリーソフトを使った小中学生を対象とした体験型授業(ワークショップ)を推奨・実践する日本HPの社会貢献事業としてスタートし、2009年にはNPO法人として独立しました。

このワークショップでは、子どもたちは最初に自ら目標を決めて、そこまでの過程を自身で創意工夫して進めていきます。主体的な創造活動の中で新たな発見をし、課題を解決して前に進んでいくこのスタイルを採ると、子どもたちは目を輝かせて熱中していきます。「何かを発見し、創造する」ことの面白みを知ってこそ、学びは本物になると思います。私は彼らのキラキラした目や“やった~”というときの笑顔を見たくて、この仕事をしているようなものです。

こうして私がSSKの活動に情熱を注げるのも、ひとえにHPに根づく「HP WAY」(※2)という企業理念と、その理念を実践する企業文化にあります。自分の考えや取り組みを尊重してもらい、信頼しあう環境で仕事してきた私はとても恵まれていると思います。現在、ワークショップの活動は、京都、沖縄などの地方での開催や英語を使った授業なども試みており、将来的にはこのワークショップを海外に広げていきたいという夢もあります。一人でも多くの子どもたちがプレイヤーとして輝くためにも、これまで私が培った経験や出会いを通じてこれからも教育に携わっていきたいですし、私自身、生涯プレイヤーであり続けたいと思っています。

※1 『スクイーク Etoys』
アラン・ケイが作った小学生でも使える教育用のフリーソフト。楽しみながら自分なりの作品を創作する過程で、算数や数学の概念を理解するとともに、論理的な思考能力や科学や芸術面での創造力が身につくと言われている。

※2 「HP WAY」
HPの創業者の一人であるビル・ヒューレットの、「人間は男女を問わず、良い仕事、創造的な仕事をやりたいと願っていて、それにふさわしい環境に置かれれば、誰でもそうするものだ」という言葉に集約される、“尊敬と信頼”に基づく企業文化。

仕事にまつわる10問アンケート

  1. 今の仕事が好きですか?

    はい。エンジョイしています。

  2. 一生困らないほどのお金が手に入ったら、仕事以外にやりたいことは?

    すでに、スーパーサイエンスキッズ(SSK)でやっているとも言えますが、
    子どものICT教育に関わる活動を海外でも取り組んでいきたいです。

  3. 仕事で、"鳥肌が立つほど感動した"ことがありますか?
    それはどんなときですか?

    今年で勤務年数32年目となり挙げるときりがないのですが、
    1番最初は、営業として会社始まって以来の大型案件を新規受注した時でしょうか。
    営業はプロデュ―サ―であり、自身が立てたストーリーを完成させるために、上司も含めた社内外のリソースをマネージメントして受注に結び付けます。ひとつの映画を創作するような創造的な仕事だと思います。

  4. 仕事より大切なものは?

    自分が情熱を注げる愛すべきもの全てですが、いっぱいありすぎてバランスが難しいですね。私の場合は仕事もその一つなのですが・・・。

  5. 子供の頃になりたかった職業は?

    いろいろありましたが、そのなかのひとつが学校の先生でした。45歳を過ぎてからファシリテーター(※3)として近い事をやっています。夢は捨てさえしなければいつかかなうものかもしれません。

    ※3 ファシリテーター
    教育現場の場合、学習プログラムの実施において学習者の学びや気づき、成長を促進する人のこと

  6. あなたの子供に、仕事のためにどのようなことを身につけさせたいですか?
    (※子供をお持ちでない方は、いると仮定してお答え願います)

    失敗を恐れず何事があってもへこたれないマインドや胆力といった、リアルの体験を通じた「生きる力」。

  7. あなたの仕事にとってコンピュータとは?

    目標や自分のやりたいことに向かっていくための、ツールのひとつです。

  8. 仕事で成功するために、もっとも大切なことは?

    たとえ何があっても前向きにとらえ前進する生命力。パッションとバランスはそのための必須要件。

  9. いま、1時間だけ自由な時間があったら、何をしたいですか?

    いま、最も熱中しているスキューバダイビングへの旅行プランを考えたいです。

  10. 最近読んだ本で、仕事に役立ったのは?

    特にありません。書物よりも、人との直接の巡りあいのなかで役立つことのほうが多いですね。

【2011年3月インタビュー】

日本ヒューレット・パッカード株式会社
法務・コンプライアンス統括本部 GPA(ガバメント・パブリックアフェアーズ)部 部長
特定非営利活動送人スーパーサイエンスキッズ 理事長
瓜谷 輝之(うりたに・てるゆき)

【Profile】

1955年大阪生まれ。2003年にアラン・ケイ博士と出会い、情報通信技術を活用した教育支援活動にかかわる。翌年、教育支援を行うボランティア組織を立ち上げ、2009年2月にはNPO法人スーパーサイエンスキッズを創設。国内外の科学者、アーティストや大学、政府、企業と連携し、21世紀型教育に関する実践を通した提案活動を行う。
2011年現在、文部科学省における女子中高生の理系進路選択支援事業と、未来の科学者養成講座推進委員会の委員も務める。現職は、日本ヒューレット・パッカード(株) GPA部 部長。

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