社会学の視点から考察した若者のキャリアや生き方(後編)
前編、中編での考察を踏まえ、最後の本稿では私から、後期近代という生きづらい時代を生き抜かねばならない若者たちに対して、『存在論的安心』を得るための一つの指針を与えたいと思う。
それは、「専門性」の鎧を身につけることである。
後期近代社会において、今の自分のまま生きるのは、将来のリスクに対して最も効率の悪いリスクヘッジである。ディズニー・アニメの『アナと雪の女王』で、劇中歌の「Let it Go」が「ありのままで」と訳され、日本でも大ヒットしたのは記憶に新しいが、それは現代を生きる我々がすでに、「ありのまま」の自分ではいつまでも生きられないことに、薄々気づいているからではないだろうか。後期近代において、「ありのまま」であることは、将来のリスクに対して無警戒・無関心であるということに他ならない。もはや我々は、お伽噺のなかでしか「ありのまま」に共感することはできないのだ。
今、我々に求められているのは、「ありのまま」とは正反対の「再帰的自己」という個のあり方である。それは、将来にわたって弛みなく自己を作り替えていく終わりなき自己研鑽と言ってもいいだろう。
キャリアアップのための資格の取得、自己啓発のためのセミナーの受講、専門書による自己学習、上司からのスーパービジョン等々、挙げていけばきりがないのだが、もはや我々は、あたかもコンピュータのOSのように休みなく自己のアップデートを行わない限り、『存在論的安心』を手に入れられない時代を生きているのである。
大変、生きづらい世の中になったものだが、逆に言えば、そのリスク社会に真摯に向きあい、「再帰的自己」を確立できた若者たちには、当人ですら予測もできなかったような、希望の地平線が開けているのかもしれない。
(2017年6月 蔵王)