新しい資格、新しいスキル、新しいキャリア。 株式会社 オデッセイコミュニケーションズ

新しい資格、新しいスキル、新しいキャリア。 株式会社 オデッセイコミュニケーションズ

Topics インタビュー

2021.12.06

自分の頭で考え、手を動かすことで「本当の答え」が見つかる。

~ExcelやVBAを現場で活用

需要と供給に応じて価格を変動させるダイナミック・プライシング事業を行う、2018年に設立されたベンチャー企業のダイナミックプラス株式会社。過去のデータと現在のデータに基づき、「予測モデル」とパターン認識によって、価値に見あった価格最適化サービスを提供する同社では、データ分析にExcelやVBAを日常的に活用。サービス概要とVBAの利用状況について、代表の平田英人さんとデータサイエンス部の西村昂哉さんにお聞きしました。

ゲスト
ダイナミックプラス株式会社

代表取締役社長 平田 英人さん、データサイエンス部部長 西村 昂哉さん

インタビュアー
株式会社 オデッセイ コミュニケーションズ 荒木 純子

価値に見あった価格を払う消費形態へ

御社が展開されているダイナミック・プライシングの概要と 事業をはじめたきっかけを教えていただけますか?

平田 簡単に言うと「ダイナミック・プライシング」は、これまであらかじめ価格が設定されていた商品やサービスの価格を需要に応じて柔軟に変えていく仕組みです。当社は、2018年からこのサービスを基軸にしたビジネスを展開しています。

私が、この事業をはじめたきっかけとなる出来事は、2013年7月28日に行われたヤンキー・スタジアム(ニューヨーク・ヤンキースのホームスタジアム)での松井秀喜選手の引退試合で した。私自身、松井選手と同い年ということもあり、そのメモリアル試合を是が非でも息子と観たいと思い、スタジオムでもっとも良い席(1塁ベンチ裏1列目)の値段を、インターネットで毎日チェックしていました。その席は前にフェンスがなく、目の前で一流の選手が行き来する姿を見ることができることもあって、日本円にすると1人約8万5,000円もの高額。「2枚で17万円。それは高いなぁ……。」とやや諦めつつ、別の日にその席から3列後ろの値段を見ると1人5万円。それでも十分高いですが、8万5,000円の価格を見ていた私にとって「この席でも選手は存分に見えるし、この金額は安いんじゃないか」と思い購入しました。

このとき感じたことは2つ。ひとつは、人によって「払いたい」と考える金額がまったく異なること。もうひとつは、席の価値は試合や買うタイミングごとに変わり、その価値に見あった価格を払う消費形態が今後日本でも当たり前になってくるだろうなということでした。
これをきっかけのひとつとして、データ活用による価値に見あった価格最適化サービスを思い立ちました。

日本では、どのような企業が採用しているのでしょうか?

平田 現状はスポーツ界での導入が多く、Jリーグで14、プロ野球で6、Bリーグは9クラブに採用いただいています。その他、演劇や音楽などのエンターテインメント領域をはじめ、チケット以外ではホテル、小売、EC、バスやテーマパークなどからもお問合せをいただいています。

当社は、世の中のあらゆる商材やサービス価値を再定義し、最適な価格を科学的に算出することで、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」を目指しています。売り手は収益の最大化につながり、買い手は、例えば5,000円均一だったものが1,000円から1万円と価格の選択肢が広がることで、各人が求める購入機会と価値が得られる。そして、世間よしは転売に対する抑止につながればと。
問題視されているのが、手に入りにくいチケットが20万円や50万円という高額で売られている「転売問題」です。例えば、1万円で買ったチケットが10万円になれば、転売する人が大きな利益を得ることが問題となります。本来、その差額の利益は事業主の得るべき利益です。そこで、10万円の価値があるのであれば、その価格で事業主が売るべきというのが「ダイナミック・プライシング」の考えで、転売する人が購入したとしてもいくらで売るといいのかわからなくなり、転売自体が減っていき「世間よし」となるわけです。

データを可視化して最適価格を提示することで利益がアップする

利用企業の収益最大化につながる、経験や勘に頼らない 最適な価格を科学的に割りだす手法を教えてください。

平田 まず、過去の販売実績データと各種イベントなどのマーケティング施策ごとの集客データ、そしてヒアリング情報に基づいて「予測モデル」とパターンを作ります。プロ野球で何十パターン、Jリーグで何十パターンといったかたちで。ただこれは、所詮は過去のデータです。価値に見あった金額は、「誰が投げる」とか「どのチームと対戦するか」「優勝がかかっているのか、消化試合か」などによっても、販売量や需要が変わります。なので、リアルタイム性のある直近データも日々取り込んで推奨金額を算出し、「ダイナミック・プライシング」というサービスを提供しています。

提供:ダイナミックスプラス株式会社より拡大してみる

西村 もう少し具体的に説明すると、サービスの提供は、最終的に右図のようなダッシュボードで提示します。こちらはJリーグのAチーム対Bチームの試合の観戦席で、売れ残っている席が5,200席あることを示しています。残席の内訳は席の種類ごとに出てきて、バックSS指定席を見ると186席(①)が売れ残っていることがわかります。価格は4,600円(②)ですが、この金額で売り続けた場合、当社の「予測モデル」によると、売れるのは150席(③)。そのため、この席を4,000円(④)まで下げることを推奨しており、その価格では売れる席が181席(➄)まで増えます……というように可視化しています。

西村 はい。右図はプロ野球C球団の球場で、上がグラウンド側で下がスタンド側の席です。これらが1席ごとに売れていく状況をデータとして取り込み、売れた順番で可視化していきます。赤色が先に売れていった人気のある席を示しています。この右側のやや切れているところは通路側で、後方も前方も通路に面していますが、単純に試合が良く見える前の席から売れていくのではなく、後ろの席もそれなりに売れていくことがわかります。

下図は、他のケースで「席が売れていく状況」を実際に動かしてシミュレーションしてみたイメージ図です。

イメージ図を見ると、時間ごとにどの席のチケットが売れていくかが一目でわかる。
(図は、上が球場のグラウンド側、下がスタンド側)[ 提供:ダイナミックスプラス株式会社より ]

平田 可視化すると、人々の指向や好みなどがつかめてきます。早く売れていく席はそれなりにニーズがあり、高い価値があると言えます。新幹線であれば圧倒的に窓側の席が早く売れますし、飛行機は通路側が早く埋まります。 席の価格は、前から何列目か、隣は通路か席か、エリアはどこかといった、隣と前と後ろのエリアの掛け算で決まりますが、当社は1席ごとに異なる価格設定をしているため、掛け算がさらに何倍にもなっていくようなイメージです。同じ価格で売るのであれば、この赤いエリアは単純に“人気の席”になりますが、「値段が違うからこの席を選んだ」という方もいるので、膨大な数の掛け算で人気エリア(ヒートマップ)を策定しています。

西村 その掛け算も「もともと、いくらで売られているのか」「何日後に、どれだけ売るのか」「ほかのエリアをすべて取り入れたうえで、このエリアがどれだけ人気なのか」など、さまざまな要素を考えなくてはならず、とても大きな料率計算みたいな感じと言ったら伝わるでしょうか……。「予測モデル」を作って人間が行う計算量の限界を超えた部分はAIを使って機械的に処理しています。

平田 AIは取り入れていますが、人工知能は万能ではなく、当社は、いままでのパターンとまったく異なるパターンになったとき、売上のパターンを瞬時判別し認識するうえで、AI技術である機械学習を活用しています。そのため、「予測モデル」を作ることが重要です。推奨価格は毎日変わりますが、過去のデータと現在のデータに基づき、「予測モデル」とパターン認識によって価格が自動更新されるからであり、その根幹となるのは人間が作る「予測モデル」です。

データ分析にはExcelやVBAをフル活用

「予測モデル」を開発するうえでは さまざまなお客様から提供されたデータが不可欠ですよね?

西村 はい。「予測モデル」は、お客様から提供いただく過去のデータが基準になりますから、すべてはその生のデータをベースに分析を進めていきます。ただ、データとはいっても、日単位だったり、時間単位だったりなど、粒度はお客様によってまちまちです。データのなかには半角と全角が混在しているデータもよくあるので、まずはデータの形式を整える必要があります。そのような場合は、柔軟にデータ加工できるExcelだと時間をかけずにすぐに作業ができるため、ExcelやVBAは日常的に多用しています。お客様からいただくデータもExcelが多いです。

PythonやR(アール)は流行の言語ですが、お客様ごとに異なるプログラムを作るとなると、工数も多くなりがちで……。プログラミングをする際は、記述するコード量をどれだけ減らせるかをすごく意識しています。他のプログラミング言語だと相当数のコードになる処理でも、Excel VBAならExcelの機能を利用して実装できるので、3分の1ぐらいの量で済むこともあります。
また、頭のなかで考えたことをExcelの関数やVBAならすぐに確認できるので、何か新しいものを開発するとなったときは「まず、ExcelとVBAで作ってみる」といった使い方もしています。他の言語で作ったら数万行のコードになるような処理もExcelとVBAを組み合わせれば簡単にできることが多いです。先ほど見ていただいたシミュレーションの動画も、Excel VBAで作っています。ピポットテーブルにループをかけてフィルターを外したりするだけですぐに作ることができますからね。

平田 業種を問わず、日本の多くの企業はWindows 95の登場からずっと、業務にExcelを使っています。デジタル化が進んでもExcelの利用はなくならないし、さらに進化していますしね。

基本の習得が、結果的に仕事の効率化につながる

多々あるプログラミング言語のなかで、エンジニアにとってVBAは どのような言語でしょうか。

西村 私たちエンジニアは開発にいろいろな言語を使いますし、エンジニアのなかにはExcelに付随するVBAの位置づけを低くとらえる側面もあるかもしれません。ただ、多くの人は「PythonとかR(アール)で、何かをやってみよう」となったとき、ネットで調べるはずです。そうしたコードはネット上に公開されているので、出てきた通りにやれば、何をしているのかはわからなくても、できた気になってしまうことも多いですよね。そのような場合は特に、自分の頭で考えて、掘り下げていくことで自分のものにしていくことが必要だと感じています。

私の場合、学生時代に初めて習った言語がVisual Basicでした。当時は、Visual Basicは有料でしたが、それに似ていて手元にあるのがExcelのVBAだったので、Excel VBAで授業の課題を作っていました。Excel VBAはワークシート上のデータを操作するので、簡単に見えるところがいいですね。目で見ながら、うまくいかないところを試行錯誤することで、プログラミングの力がついていくと思います。
当社の50代エンジニアもそうですが、長年、開発を業務としてきた人は『VBAは結構、良い』って言っていますし、業務に深く根づいたExcelに付随するVBAは、それこそ業務最適化のソフトなんじゃないでしょうか。

平田 確かに、ネットで調べて答えを見つけてそこで満足するだけだと、永遠に根本が理解できないことは少なくないと思います。手を動かして自分でVBAを使って作ると、「思い通りにいった」とか「どこが間違っていたのか」ということが自身で理解できますからね。人が書いたもののナレッジ共有は良い文化ではあるけれど、ネットに転がっているきっちりしたコードを利用すると、変えたいときに応用が利かないし、その応用も誰かが作ったものを利用したりしていると、自身の思考が停止してしまうことにもなりかねません。 当社は、お客様から出されたデータを自ら悩みながら分析し、そこに解決策を見出すことが必要になるため、生のデータを触りながら前進する/苦しみながら覚えていく部分は重要視しています。

データを多く扱う仕事をされていますよね。 御社が求める人材には、「統計」の知識なども必要でしょうか?

平田 もちろん、統計の知識などもあるに越したことはありません。ですが、書籍や講義から学べる“座学知識”だけではわからないことがあるので、それに加えて実学を重ねていくことが大切です。それこそが仕事に活用できる真の実力になると考えています。 自分で調べて自分の頭で考えれば、そこに何らかの解が導きだされます。目の前にあるデータを自分なりに解釈するために「手を動かす」という基本を忘れてはいけません。また、基本を理解して土台がしっかりしていれば、根本にある問題に気づくことができます。

実際に開発の仕事をすると、不具合や障害は避けられません。「トラブルシューティングはセンスだ」と言われることがありますが、そうではないと感じます。「どこが間違っているのか」「どうすればいいのか」を導きだせるのは、自分で手を動かし、頭で考えて一つひとつ丁寧に掘り下げていくからこそ。短期的には、誰かに聞いたり、答えを見たりするほうが簡単で早いかもしれませんが、その方法が身について学びをやめてしまうのは中長期的には失うものが少なくないのではないでしょうか。
手を動かし、試行錯誤するのは面倒で大変かもしれませんが、それを「楽しんでやること」が大切で、あとあと振返ったとき「成長したな」という実感が湧いてくると思います。

ダイナミック・プライシング事業の根幹をなす人間が作る「予測モデル」。そこには、人間の限界を超えた計算量を処理するAI技術とは別に、業務に深く根づいたExcelに付随するVBAが有効に活用されていることをお聞きできました。本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

(インタビュー:2021年10月)

本社(東京都千代田区)オフィスにて
企業紹介
2018年6月に、三井物産株式会社とヤフー株式会社等によって設立されたダイナミックプラス株式会社は、「需要と供給に応じて価格を変動させるダイナミック・プライシング事業」を行うベンチャー企業。
「世の中のあらゆる価値と価格を科学し、価格の未来をつくる」をミッションに、コンサート、スポーツ、テーマパーク、催事等の各種興行チケットをはじめ、ホテル、配送、バス等のサービス産業など、利用企業は多岐にわたっている(2021年11月現在)。
データサイエンティストやシステムエンジニア、機械学習エンジニアなど、科学的に価格の未来を変えていく人材を幅広く募集している。
ホームページ:ダイナミックプラス株式会社