
2026.05.15
生成AI が瞬時に答えを出してくれる時代において、「人間がわざわざ時間と労力をかけて資格を取得し、知識を学ぶ意味はあるのか?」という疑問を持たれる方は少なくありません。本稿では、株式会社 電通東日本のIT企画部に所属し、ITガバナンスや情報セキュリティ、IT戦略の立案を担当する一方で、「dentsu Japan AIマスター」としてAI推進を担う叶さんへの取材内容をもとに、AI 時代だからこそ浮き彫りになる資格取得の本当の価値について紐解きます。
「dentsu Japan AIマスター」は、dentsu Japan―国内電通グループ全体のAI・データ&テクノロジー委員会が認定する称号です。グループ横断で「AI活用力」を可視化することを目的に設けられ、階層としては主席AIマスター・AIマスター・AIファシリテーターの3段階があります。現在、グループ全体では約250名のAIマスターが活動をしています。
電通東日本の営業部門には、AIを独自の視点で高度に使いこなしているベテラン社員がいます。彼は単にAIへプロンプトを投げるのではなく、社内の専門家から聞き出したノウハウを「AIを賢くする燃料」としてプロンプトに組み込んでいます。同じAIを使っても、人間側が持つ「コンテキストの解像度」や「洞察の深さ」によって、出力される結果には大きな差が生まれるのです。 AIを使って手を抜くのではなく、より深く、より多くの知恵をこめて考え抜くためにAIを活用する。その姿勢こそがクライアントへの誠意になるという発想です。
AIは人間の仕事を奪うものではなく、文脈を読む力や基礎知識を持つ人間の「考える力」を拡張する存在だと言えるでしょう。
AIから質の高い回答を引き出すためには、問いを立てる側の人間にある程度の「基礎知識」が不可欠です。 業務改善の場面でAIに指示を出す際、その業務やツールに関する専門用語を知らなければ、極めて曖昧で解像度の低い指示しか出せません。システムの世界における「GIGO(ゴミを入れればゴミが出てくる)」の法則の通り、不適切な前提や曖昧な指示を入力すれば、AIもまた不正確な答えを返します。
その点において資格取得に向けた学習は、AIに対して正確で高度な指示を出すためのボキャブラリーや前提知識を身につけるプロセスでもあります。例えばMOS Excelでは、「セル」「セル番地」「絶対参照」「相対参照」という言葉を学びますが、もしその前提知識がなく、「この枠の中に入っている○○を××して」とAI へ指示しても、1回で想定していた回答にたどり着かず、何回か指示を繰り返す必要が出てくるかもしれません。前提知識がある場合と比べると効率は下がり、場合によっては試行を諦めてAI 自体を使わなくなってしまうことにつながりかねません。体系的な基礎知識を持ったうえでAI との壁打ちを根気強く続けるという「二刀流」が、確かな成果につながる大切な要素になります。
「AIを使っている人」と「使っていない人」の二極化を防ぐためには、単にツールを導入するだけでなく、使いこなしている人の実践を社内に伝播させる仕掛けづくりが重要です。うまく使っている人の事例から「自分もできそうだ」と心理的なハードルを下げることで、AIの活用は広がっていきます。それとあわせて、利用者自身の基礎知識を底上げしていくことが不可欠です。 AIがどれほど進化しても、資格取得を通じて得た体系的な基礎知識をもち、AIとの壁打ちを根気強く続ける、という二刀流の姿勢は、業種や職種を問わずどこでも通用する普遍的なスキルとなるでしょう。
また、常に、自分自身の情報をアップデートすることによって、最新の機能を前提としてAIへ指示することができるようになります。そして、最新の機能を学び続けようとするときにも、やはりそれらの情報が体系的に整理された資格を最新のバージョンで取り直すのが最も効率的だと考えます。AI時代における資格取得は決して無意味なものではなく、人間とAIが高度に協働するための強力な「布石」となるのです。
(インタビュー:2026年3月)