
2026.10.15
グローバルBiz専門職大学は2023年4月、神奈川県川崎市にグローバルビジネス学部/グローバルビジネス学科を擁して開学した専門職大学。知識だけでなく、実際のビジネス現場で活かせる実践力の育成を重視しており、生成AIを英語学習やメディア戦略、コンテンツ制作に取り入れるなど、実務につながる学びを展開しています。
こうした学びを通じて、AIを使いこなしながら人にしかできない創造的な仕事に取り組む力を育てる同校では、2026年春から生成AIの基礎知識や利用スキル、倫理的な運用への理解を証明する国際的な資格試験『Generative AI Foundations(生成AIファンデーションズ)』を活用。マーケティングの授業も担当する同校の平岩学長に、次世代を担う学生に求められるAIリテラシーと、AI人材育成について伺いました。
学長 平岩 賢志さん
東京大学理学部情報科学科卒業、同大学理学系研究科修了。慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。博士(工学)。株式会社日立製作所では、日立情報通信エンジニアリングの経営企画本部長として、事業・経営戦略の実行を統括するとともに、IoT新事業創生をはじめとする数多くの産学官連携プロジェクトを統括。情報処理学会 優秀研究報告賞を受賞。
専門領域:IT・ネットワーク、経営戦略、マーケティング、製品開発
担当科目:マーケティング概論、DX論、臨地実務実習、事業創成実習
本大学は理論と実践をバランスよく学び、実社会で活躍するプロフェッショナルを育成することを目的とした新しい大学制度のもと、2023年に開学いたしました。来年2027年の春、初めての卒業生が出る非常に新しい大学です。
学びの中心はビジネスで、伝統的な大学でいう「経営学部」にあたります。経営学部ですが、学び方において専門職大学らしい大きな特徴があります。それは「理論と実務の往還」。理論を知識として学ぶだけでなく、実際のビジネス現場で試しながら身につけていく、実務的な教育を重要視しています。
具体的には、ビジネスや経営の基本に加え、英語などの国際コミュニケーション、DX、流通・貿易、メディア戦略など、これからのビジネスに必要な知識やスキルを実践的に学べます。4年間で600時間の国内や海外企業でのインターンシップをはじめ、教員と学生が対話しながら学ぶ双方向型の授業や、調査・発表、学生自身に自らよく考えさせるPBL(課題解決型プロジェクト)のグループワークなども採用。知識を覚えるだけではなく、自分で考え、相手に伝え、周囲と協力して課題を解決する力を身につけることで、実際のビジネス現場で活躍できる人材を育成しています。
これからの社会では、知識を持っているだけでは十分ではありません。自ら問いを立て、考え、異なる背景を持つ人と協働し、テクノロジーも活用しながら、新しい価値を生み出していく力が求められます。私たちは、学生一人ひとりがそうした力を身につけ、変化する社会のなかで自らビジネスを動かしていける人材へ成長することを目指しています。
AIそのものは決して新しい技術ではありません。研究の歴史は長いのですが、近年、コンピューターの処理能力、ネットワークの高速化、ディープラーニングなどの進歩が重なり、さらに生成AIが登場したことで、AIは一部の専門家の技術から、誰もが日常的に使う社会のインフラへと変わりつつあります。私は、この変化はインターネットが普及したときと同じくらい、あるいはそれ以上に、大学教育を変える可能性があると考えています。従って大学が学生に教えるべきことも、「AIを使えるようにする」だけでは十分ではありません。むしろ重要なのは、AIに何を任せ、何を人間が担うのかを判断できる力です。AIは情報を集め、整理し、文章やアイデアを素早く提示してくれます。しかし、「何を問うのか」「その答えは本当に正しいのか」「自分はどう考えるのか」「最終的に何を選択するのか」は、人間が担わなければなりません。私は、これからのAIリテラシーとは、単なる操作スキルではなく、AIを使って人間自身の思考と創造性を高める力だと考えています。
AIは、使えば使うほど学習効果が上がるとは限りません。私たちはそこに「逆U字」の関係があるのではないかと考え、研究を進めています。AIを使いはじめると学習成果は高まりますが、考えることまでAIに任せすぎると思考の浅薄化を招き、かえって成果が下がるというものです。一方、検索や情報収集などをAIに任せて認知負荷(ストレスや負担)を減らし、生まれた余力をより高次の思考に振り向ければ学習成果を高めることができます。重要なのは「使えばいい」のではなく、「何をAIに任せ、何を人間が考えるのか」を見極めることです。
当学で幅広く実施しているPBL(課題解決型プロジェクト)では、AIと人間の役割を意識した実践的な学習を行っています。情報収集・調査はAIを活用し、その後、AIの回答に誤りや見落としがないかを人間が評価・分析。そして、その分析した情報を自分の考えとして統合し、提案や企画という成果物にまとめます。AIに任せる部分と人間が担うべき思考を切り分けながら、社会に出てから必要となるAIとの協働について実習を通して身につけていきます。
AIが出した答えを最終回答だと思い込んでしまいがちですが、AIを適切に活用するには、「良い問いを立てる」「出てきた回答を適切に評価する」「最終的な判断を下す」という3段階が不可欠です。私自身もマーケティングの授業を担当していますが、放っておくと、学生はAIに答えを出させ、「AIが書いたからわからない」と説明することがあります。そこで授業では、AIを使うこと自体を目的にせず、AIを使う前後の思考を重視しています。
例えば、事業評価の課題では、次の3ステップで取り組ませています。
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ステップ1| AIを使う前に、まず自分の頭で回答を書く
ステップ2| AIにも同じ課題について回答させる
ステップ3| 自分の回答とAIの回答を比較し、その違いから得た「気づき」をまとめる
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もちろん、市場規模などの情報収集・調査はAIが得意とする分野なので任せます。重要なのは、AIに任せることで思考を省略するのではなく、AIの回答を材料として、自分の考えを深めることです。こうした取り組みを通じて、学生は「AIに答えを出してもらう」のではなく、「AIを使って自分の思考を深める」という感覚を身につけていきます。大学教育で重要なのは、クリエイティビティ(創造性)と、クリティカルシンキング(批判的思考)の育成です。
また、ChatGPT、Copilot、NotebookLMなど、ツールによって得意なことが異なるため、それぞれの特性を理解し、目的に応じて使い分ける力も重視しています。AIを一括りにするのではなく、それぞれの特性を理解したうえで、目的に応じて適切なツールを選択することも、AIを活用するうえで重要な力だと考えています。
今春から、『Generative AI Foundations(生成AIファンデーションズ)』を授業に活用したのも、学生自身のAI利用スキルや批判的評価能力(クリティカルシンキング)といった基礎知識の土台が不可欠だと考えたからです。基礎力がない状態では、適切な評価はできません。大学は、「資格取得のための学校」ではなく、また取得がゴールではありませんが、英語教育におけるTOEICのように、学習の到達度や努力の指針となる具体的な尺度・手段としては有効です。最低限の知識や枠組みを身につけ、次のステップへスムーズに進むためのツールとして活用しています。
さらに大学では、AIの使い方が学習成果にどのような影響を与えるのかについても研究しています。AIの利用量や利用スキル、認知負荷などと、異文化理解(Intercultural Competence)などの学習成果との関係を重回帰分析などの統計的手法を用いて分析し、その結果を授業開発に活かしています。実践と検証を重ねながら、AIをどのように活用すれば学習成果を高められるのかを追究しています。
※学校が試験会場として申請し、所定の条件・審査を経て登録されることで、自校で受験者を募集し、試験を実施できる。
これからの社会では、人間とAIの最適な役割分担を理解することがますます重要になります。学問やビジネスには、「エクスプロレーション(探究)」と「エクスプロイテーション(活用)」という2つの側面があります。
エクスプロレーションは、世の中にまだない「0から1」の新しい価値を生み出す探究であり、創造性が求められる領域。一方、エクスプロイテーションは、すでにある「1」を「100」に広げ、効率や成果を高めていく活動です。大量の情報を処理したり、既存の知識を組み合わせたりすることはAIが得意としますが、「何を生み出すのか」「何を目指すのか」を考えて新しい価値を生み出すことは、人間が担う重要な役割です。だからこそ、AIは人間にとって代わる存在ではなく、対話しながら思考を深める「壁打ち相手」であり、新たな価値を共に生み出すパートナーになり得ると考えています。
現在、企業ではプログラミングコードの自動生成をはじめ、さまざまな業務でAIの導入が進んでいます。しかし、AIの出力をそのまま使うのではなく、その内容が本当に正しいのか、目的に適しているのかを人間が検証し、判断することは避けられません。AIを活用するほど、むしろ人間側のクリティカルシンキングや判断力が重要になるのです。専門技術のすべてがAIに置き換わっているわけではない今だからこそ、人間にしかできない「問いを立てる力」「考える力」「判断する力」を磨いてほしい。そしてAIを上手に使いこなしながら人間とAIがそれぞれの強みを発揮し、共に新しい価値を創出していく。AIとともに新しい価値を生み出せる人を育てる。それが、AI時代に大学が果たすべき役割だと考えています。
(インタビュー:2026年9月)